皆さん、おはようございます。
【これからの社長夫人は会社経営のプロになれ!】の著者で社長夫人戦力化コンサルタントの矢野千寿です。
D社は、中部地方にある精密機械部品の製造会杜です。
年間売上は50億~60億円。
中小企業としては、かなりの規模といえるでしょう。
ところがこの会社には、事務所のスタッフが3人しかいません。
初めてD社を訪れた人は、誰でも事務所の狭さと簡素に驚くのではないでしょうか。
私も大に驚かされた一人です。
D社の社屋は、1・2階が工場になっていて、事務所は3階にあります。
私たちは工場の隅にあるエレベーターに乗って3階まで上がりました。
案内してくれた社長夫人が申し訳なさそうに「先生、今回はこちらでいいですか?」と聞くので、「もちろん、いいですよ」と答えました。
そして、ドアを開けた途端、社長夫人が申し訳なさそうな顔をした理由を知ったのです。
事務所は、12坪ほどの本当に小さな部屋でした。
事務机が3つ、額を寄せ合うように並んでいて、空いたスペースに古びた応接セットが押し込まれています。
私たちはそのソファに座って帳簿のチェックを始めました。
帳簿をめくりながらも、私の脳裏には、数日前に訪れた別の会社のオフィスの様子がちらついて仕方ありませんでした。
そこは商業デザインの会社で、地代の高い一等地に、ワンフロアがとても広いオシャレな事務所を借りていました。
ところが、フロアの3分の1は電気が消えているのです。
こちらもやはりリーマン・ショック以降、仕事が急激に減ったため、少しでも経費を節減しようというのでしょう。
経費節減はよいことです。
しかし、電気を消す以前になぜ広いオフィスを借り続けているのか、私には理解できませんでした。
そもそも、一体なぜそんな贅沢なオフィスを借りたのでしょう。
デザイン会社という仕事の関係上、それなりの体裁は必要なのかもしれませんが、無駄が過ぎるように思えてなりませんでした。
それに比べて、D社の事務所のなんと質素なことでしょう。
私はそこに、D社の社長の確固たる理念を感じました。
製造業であれ、サービス業であれ、企業にとって一番大切なのは、直接、お金を稼いでくれる現場です。
経理部門や事務部門はお金を使うだけ、自分たちで稼ぐことはできません。
言ってみれば、社内のサービス部門なのです。
ところが、現実にはどうでしょう。
多くの会社では、サービス部門のほうが大事にされ過ぎています。
現場の従業員が冷暖房もない工場で一生懸命お金を稼いでいるのに、間接部門のスタッフは快適なオフィスでのんびり仕事をしている。
むしろ、お金を使い過ぎているのではないでしょうか?
それはおかしい・・・
D社の社長はそう考えたのでしょう。
経理部門や事務部門などの間接部門にかける経費は最小限に抑え、工場で働く社員を大切にすることにしたのです。
「現場が大事」という言葉はあちこちで耳にしますが、本当に実践している会社は少ないように思います。
このような考え方は理想論のように思われがちですが、そうではありません。
お金を稼がない部門では徹底的な経費削減を進めるかわりに、お金を稼ぐ部門は手厚く遇する。
その結果、どういうことが起こるかといえば、間接部門のスタッフは自分たちの立場と役割を認識し、謙虚な態度で現場をサポートするようになるのです。
一方、現場のスタッフは、大切に扱われることで仕事にやり甲斐を感じ、ますます一生懸命に働くようになります。
その結果、社内のモラルは高まり、生産性も上がり、D社のように業績も伸びていくのです。