皆さん、おはようございます。

【これからの社長夫人は会社経営のプロになれ!】の著者で社長夫人戦力化コンサルタント矢野千寿です。

 

私が顧問契約をしている会社で、実際に体験した出来事です。

機械部品を製造しているその会社では、リーマンショック以降、御多分に漏れず仕事が激減し、社内のムードは沈滞化する一方でした。

社長の口から出てくるのも、「打つ手がない」とか「どうせ中国には勝てない」など、景気の悪い愚痴ばかり。

まずは社長自身が元気を出さなければ始まらないのですが、あまりにも心労が多く、疲れ切っている様子です。

むやみに励ますことで、ますます社長を追い詰めることになってはいけません。

社長の代わりに、社内のムードを高められるような人はいないだろうか・・・。

社長夫人も一生懸命やっていますが、まだまだ全社員からの信頼を得るところまでいっていません。

私は経営幹部たちの顔を一人ひとり見回しました。

そして、人事担当の常務に目が止まったのです。

常務は古くからいる幹部の一人で、若い社員からも尊敬されていました。

ただ、おだやかで控えめな人柄のせいか、自分の意見を主張したり、表に出て目立つ活躍をしたりすることがありませんでした。

私は「そんな常務だからこそ、社内の雰囲気を変えられる。常務が動けば、みんなが動いてくれるに違いない」と思いました。

中堅社員以上が集まる業務会議の日。

いつもなら社長と並んで私が前の席に座り、社員たちの顔を見ながら司会をします。

しかし、その日は、いちばん後ろに向かって声をかけました。

「常務、こちらに来ていただけませんか。今日は常務に司会進行をお願いします」

常務は一瞬驚いた顔をしましたが、やがて覚悟を決めた様子で歩いて来て、司会者の席に座りました。

そして、立派に司会進行の務めを果たした後、こんな感想を口にしたのです。

「今日まで私には自分の役割がわかっていませんでした。

でも今日、こちら側に座ることで、常務としての役割に気づきました。

自分を見つめるチャンスをいただき、本当にありがとうございました。

これからは社長の手となり、足となり、会社を立て直すため精一杯がんばる覚悟です」

社員の間から自然と拍手が起こり、常務は深々と頭を下げました。

この日、確実に一人の社員が変わりました。

それは、会社全体が変わり始めるきっかけに過ぎません。

人が変わり、別の一人が影腎を受け、また別の社員がそれをフォローする・・・。

組織とは、そんなふうにして変わっていくものではないでしょうか。

翌月、私はふたたびその会社を訪れ、社長と面談しました。

すると驚いたことに、わずか1ヵ月前には、「打つ手がない」「末来なんかない」と言っていた社長が、夢を語り始めたのです。

「中国にどんどん仕事が流れていくというけれど、まだまだ品質管理や納期の面では負けないと思う。まずは日本国内で生き残ること。そのためには社内の人材育成が大切で・・・」

数字は変わらない。

これは私の口癖です。

数字はそれだけでは変わりません。

でも、人が変われば、数字も変わるし、組織も確実に変わっていくのです。

結局のところ、会社を動かしているのは人なのですから。