皆さん、おはようございます。
【これからの社長夫人は会社経営のプロになれ!】の著者で社長夫人戦力化コンサルタントの矢野千寿です。
A社の社長夫人とは、私が6年前に東北地方のある金融機関で講演を行ったときからのご縁です。
講演会に参加した170人の社長夫人のなかの一人でした。
当時から、彼女のなかには「このままではいけない、何かをしなければ・・・」という危機感があったようでした。
その後、私が福岡で「社長夫人革新講座を開いたときには、飛行機に乗って福岡まで通ってくるほどの熱心さでした。
社長である夫は、若い頃は画家志望だったという芸術家タイプですが、経営の勉強もよくされています。
社長と社長夫人には、もう一つ大きな悩みがありました。
この会社は、社長と社長夫人と社長の弟が中心になって経営してきたのですが、ここ数年、3人の気持ちが微妙にズレ始めていたのです。
創業当初は「この会社を成功させよう」という思いでまとまっていたのに、20年たって実際に会社が優良企業に成長すると、3人がそれぞれ別の方向を向くようになってしまったようなのです。
「もう一度、同じ目標に向かってまとまりたい」というのが夫婦の願いでした。
しかし、社長といろいろ話をしているうちにわかったことですが、社長も社長夫人と同じ悩みを抱いていたのです。
「社長は何をしたいのですか」と質問すると、「幹部とベクトルを一つにしたい」といわれました。
幹部と言うのは、社長、社長夫人(常務)、社長の弟(製作部長)、経理主任の4人ですが、いつも社長と幹部3人の考え方がずれるようです。
A社の成長が鈍化し始めた原因は、あまりにも財務状態がよく、経営が安定しているため、努力目標を見失ったことにあるのかもしれません。
たしかに現在のA社なら、差し迫った不安も危険もないでしょう。
しかし、ひとたび成長が止まった企業は、かならず衰退を始めるものです。
余力のある今のうちに、将来のための手を打っておくべきです。
私は社長の絵を見せてもらいましたが、すばらしい才能だと感じました。
すでに国内外のいくつもの展覧会で入賞しているそうです。
社長の才能はA社の強みであり、業界においても差別化できるだけの価値はあると思いました。
私は、その才能を積極的に売り出して、新しいビジネスに結びつけることができないだろうかと考えました。
絵の才能をビジネスに活かすなどと言うと、非現実的な話のように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
アート関係のビジネスには大きな可能性があります。
たとえば、社長が画家として成功し、有名になれば、看板制作の注文も増えるでしょう。
看板だけでなく、公共スペースに設置するモニュメントや壁画などの注文にも、十分、対応できるはずです。
そうした展開までにらんで、私たちはまず会社ぐるみのアート展を開催。
社長の絵だけでなく、社員が制作した看板やアート作品も地元の人たちに見てもらうことにしました。
予想以上に大勢のお客さまが来場し、アート展は大成功に終わりました。
すると、ほんとうに駅前広場のモニュメントやホテルのロビーの壁画などの注文が入り始めたのです。
社内の雰囲気はすっかり変わりました。
誰よりも、社長の意欲が違ってきました。
当然でしょう。
それまでは「趣味だから」と思い、休日であってもどこか肩身の狭い思いをしながら絵を描いてきたのです。
しかし今や、「仕事の一環」として堂々と絵筆を持てるようになりました。
社長夫人も変わりました。
もともと営業センスに長けた聡明な女性でしたが、以前にも増して生き生きと動き回るようになりました。
そして社長の弟は社員のリーダー役として現場を統率するだけでなく、社長の描いた原画をコンピューターグラフイック化する作業を今まで以上に積極的に取り組むようになっています。
3本のベクトルがふたたび1本になり、A社は創業当時の活気と勢いを取り戻したのです。
今後、A社の業績がふたたび伸び始めることは間違いないでしょう。