皆さん、おはようございます。

【これからの社長夫人は会社経営のプロになれ!】の著者で社長夫人戦力化コンサルタントの矢野千寿です。

 

 

中小企業では、一人の社員が複数の仕事をこなすのが普通です。

いつも忙しく、時間に追われながら働いています。

残業も多い。

まじめな社員ほど無理をしがちです。

社員は、社長が敷いたレールを走らざるを得ません。

自分でレールを敷き変えることはできませんから、経営する側が配慮しなくてはならないことです。

以前、「幸せのりんごの樹」の絵の中に、経営目標の一つとして「社員のライフプランの実現」を掲げてあったことを覚えていますか?

社員が快適に健康に働ける条件や環境を整えるのは経営者の役割であり責務でもあります。

社長夫人は、社員の健康状態などに注意してください。

同時に、人の配置や勤務体系(就業時間、出退時刻、残業、休暇など)、職務内容をチェックし、

社員に過度な負担を強いていないか、負担を軽減できる工夫はないか検討します。

仕事の内容にふさわしい勤務体系になっているか、社員が定着するような会社になっているかという問題意識も大切です。

ある商業デザインの会社で、「業績がいっこうに伸びない」と感じた社長夫人が、経営分析をしてみると、原因は一人当たりの生産性にありました。

一人当たりの粗利益額(粗利益額を従業員数で割った金額)を計算してみると月当たり44万円。

金額の多寡はともかく、問題なのは、この3年間、この数字が同じでまったく伸びていないことでした。

これは、社員が成長してない、力をつけていないことを意味しています。

考えた末に、社員が伸びない要因らしきものを2つ発見しました。

一つは残業の多さ、もうひとつは社長の考え方です。

デザインというクリエイティブな仕事には、限りなく仕事があります。

アイデアを出すだけでも時間がかかるし、「これで完璧」という基準がないので、高い完成度を求めれば、それだけ手間がかかります。

限度がありません。

それで残業になって徹夜も多い。

なにしろ、「遅くとも、翌朝の始発電車で帰りましょう」と話し合っているくらいだったそうです。

社員に聞くと、アイデアを出すのにいちばん時間がかかることがわかりました。

いいアイデアを出すには、常日頃から仕入れが必要です。

いろいろな本を読んだり、映画を観たり、芸術作品に触れたり、街を歩いたり、人と話をしたりしてアイデアの種を仕込むわけです。

徹夜して明け方に帰るという生活では、その余裕がありません。

もうひとつの原因は、「社員は3年で辞めてもらう」という社長の考え方にあります。

デザイン専門学校の新卒は、採用後3年間は見習いとして給与は安く抑えることができるという発想です。

3年を超えると給与を上げなくてはいけないから、そこで辞めてもらう。

ずっと、そのやり方を続けてきたそうです。

「いくら頑張っても3年でお払い箱」というのでは、社員は本気で働きません。

入社3年と言えば、ようやく仕事を覚えるころです。

利益をあげるような仕事ができるのは、このあとです。

そういう時期に辞めさせるのは、会社にとってもマイナスです。

目先の出費にとらわれ過ぎて、3年間の投資をどぶに捨てるようなものです。

社長は、そのことに考えが及ばなかったのです。

「3年間、育てた」という意識もないのです。

極端に言えば、使い捨てのようなものです。

社長夫人の提案は、

「残業はやめる。遅くとも夜9時にはあがる。その分、勉強してもらう」こと。

「3年で退職という慣習を改めて、長く勤めてもらう」こと。

この2つを社長の承諾を得て、社員に伝えました。

その成果はめざましいものでした。

翌年の決算で、一人当たりの粗利益額がいきなり20万円も上がって月64万円になったのです。

社員は10人ですから合計で月200万円、年間で2400万円にもなります。

粗利益額がそれだけあがったことを意味します。

前の年の粗利益が10万円だったのと比べれば、驚異的な伸びです。

いい循環ができれば、社員の一人当たりの生産性は上がることはあっても、下がることはありません。

1年目に税金などの未払いをすべて清算し、2年目には内部留保ができるようになり、銀行から「お金を借りてください」と言ってくるほどになりました。

勤務体系の改善は、単に社員の健康維持に役立つばかりでなく、回り回って業績のアップにつながることがよくわかるケースです。